1月28日 ★★★『半農半Xという生き方』塩見直紀
P,4「ヨハン・ゲーテの詩に「心が海に乗り出すとき、新しい言葉が筏(いかだ)を提供する」という一節があります。海に乗り出すためには新しい言葉、新しいコンセプトが要るのです。意識が変わり、行動が変わり、暮らし方、生き方が変わる新しい概念の創出が急務なのです。」
素晴らしい!(゚∀゚)まさにその通りだと思う。
著書名の「半農半X」とは、字面でだいたい想像がつくと思うけど、生活を農業と、それ以外の自分が好きなこと、やりたいこと(X)で構成するという生活を指す。もちろんその割合は半々である必要は無いだろうが、重要なのは農業で食い扶持を確保するということ以上に、土に触れることによる様々な学びや、田舎ののんびりした生活やご近所とのつながり、自然と近い暮らしと、好きなこと、やりたいこととの相乗効果に肝があると思う。
P,2「小さな農業で食べる分だけの食を得て、ほんとうに必要なものだけを満たす小さな暮らしをし、好きなこと、やりたいことをして積極的に社会に関わっていくことを意味します」
これって僕の理想に近い生活なのではないだろうか!と期待は膨らむばかりだったのだが、結果的には「半農半X」というコンセプトを提示してくれた以外には大して得る事が多い本ではなかった。ちょっと残念。
と言うのも、いくつか原因があると思うんだけど、最も大きいのが、こういった新しいライフスタイル提案型の本を読む人間が一番知りたいと思っているであろう、ゼニカネのことがほとんど触れられていないんだよね。著者は実家に住んでいて田畑も親が持っているみたいだし、おまけに「父と同居しているので多少の援助がある」P,53、とのこと・・・(´ー`;)
「大人一人、月に10万円も収入を得れば、充分に暮らせるだろう」P,52、とも書いてあるんだけど、田舎生活には必需品であるクルマの維持費や買い替えに備えての貯蓄費用、あるいは生命保険とか子供の将来の教育費とか、あとあれだ、毎月の年金を払う事とかも、その計算には含まれているのだろうか?突発的に必要になる、家電製品や家の修繕費用とか、病気になったときの医療費なども・・・。
ってことで、実用書として期待した僕にとっては、実際に「半農半X」生活を行なっている何組かの家族の家計簿を、具体例として赤裸々に公開してくれちゃったりしたらすごく嬉しかった。だって正直な所、本当に知りたいのはやっぱりゼニカネの現実なんだもんな。それが載っていたら、この本の読者に対してすごく大きな示唆を与える事が出来たと思う。
でもこの本は「実用書」ではないっぽい感じだ。著者はいろいろな本を読んで勉強しているみたいで、ゲーテをはじめ漱石やらレイチェル・カーソン、シモーヌ・ヴェイユなどの引用がちょくちょく出てくるし、おまけにコア・コンピタンスとかバリュー等といった経営方面で流行っている言葉も急に出てきちゃったりする。でもいまいち文章に魅力が感じられないのが残念だった。プツプツ途切れる文体。細切れで、全般的に説明不足な文章だ。
章ごとに一ページ丸ごと載っている著者のナルシスティックな写真(イメージショット?)も、ちょっとなんつーか、違和感を感じてしまった。
具体例が少ない点といい、エッセイ集ってことなのかな、とか思っていたんだけど、あ、これは実用書ではなく「啓蒙書」を目指して書かれた本なんだなと思いが到って合点がいった。これは実用書ではなく、啓蒙書ですな。
いまamazonで見てみたら、続編っぽい『半農半Xという生き方 実践編』という本が出ているらしい。こちらには実用書としての「具体例」が載っているのだろうか。載っているのなら是非読んでみたいと思う。
「半農半X」というコンセプト、そしてその言葉を産み出したということはすごいことだと思う。生きていくうえでのテキスト、実用書としては物足りないけど、啓蒙書としてはOKだ。
繰り返しになるけど、「半農半X」というコンセプトはほんとに素晴らしいと思う。ワーク・ライフバランスとかワークシェアリングという言葉にも通じる、新しい労働の形の萌芽がそこにはある。どっちつかずで中途半端だと思われがちな生活も、半農半Xという一言で説明できるのもありがたい。この言葉を産み出してくれた著者に感謝だ。ヽ(´ー`)ノ
最近のコメント